2021年3月6日土曜日

家族法問題・解説①

家族法の問題とその解説です.

 ■内縁関係にあるABのうち,A男が,正当な理由なく内縁関係を一方的に破棄した場合,B女は,A男に対し,債務不履行を理由とする損害賠償請求をすることができるが,不法行為を理由とする損害賠償請求は,することができない.

誤りである.最高裁判所第二小法廷 昭和33年4月11日判決によれば「内縁は、婚姻の届出を欠くがゆえに、法律上の婚姻ということはできないが、男女が相協力して夫婦としての生活を営む結合であるという点においては、婚姻関係と異るものではなく、これを婚姻に準ずる関係というを妨げない」のであって,「内縁も保護せられるべき生活関係に外ならないのであるから、内縁が正当の理由なく破棄された場合には、故意又は過失により権利が侵害されたものとして、不法行為の責任を肯定することができる」から,

「内縁を不当に破棄された者は、相手方に対し婚姻予約の不履行を理由として損害賠償を求めることができるとともに、不法行為を理由として損害賠償を求めることもできる」のである.


■B女は,A男が死亡したときの相続について,A男と他の女性との間の子であるCに対して,A男の配偶者に準ずる相続分を主張することができる.

誤りである.配偶者(民法890条)や嫡出子(民法887条)ならびに非嫡出子(民法900条)はともかく,内縁の妻に相続人たる権利は,特別縁故者(民法958条の3)等の場合を除けば存在しない.最高裁判所第一小法廷平成12年3月10日決定は「死亡による内縁解消のときに、相続の開始した遺産につき財産分与の法理による遺産清算の道を開くことは、相続による財産承継の構造の中に異質の契機を持ち込むもので、法の予定しないところである。」として内縁配偶者の相続を否定している.


■内縁関係にある,A男がB女に無断で婚姻届を作成し,これを提出した場合,その当事者両名に,夫婦としての実質的生活関係があり,かつB女が届出の事実を知ってなおこれを追認した場合には,届出当初に遡って有効な婚姻となる.

正しい.最高裁判所第三小法廷昭和47年7月25日判決は,「事実上の夫婦の一方が他方の意思に基づかないで婚姻届を作成提出した場合においても、当時右両名に夫婦としての実質的生活関係が存在しており、

後に右他方の配偶者が右届出の事実を知つてこれを追認したときは、右婚姻は追認によりその届出の当初に遡つて有効となると解するのを相当とする。」としている.また,民法には,無効な婚姻の追認の規定こそないものの,これを否定する規定もなく,取消事由のある婚姻の追認を認める規定(民法745条2項,747条2項)が存在することを考慮すると,追認を否定すべきでない.


■不法行為による生命侵害の場合,被害者Aの扶養を受けていた内縁配偶者Bは,Aの兄弟Cが相続人としている場合であっても,BがAから受けることができた将来の扶養利益の喪失を損害として,加害者に対し,賠償請求ができる.

正しい.最高裁判所第三小法廷平成5年4月6日判決によれば「内縁の配偶者は、自己が他方の配偶者から受けることができた将来の扶養利益の喪失を損害として、その賠償を請求することができるものというべきである」すなわち,扶養利益の喪失を損害として,扶養請求権侵害による損害賠償請求が認められる.また,固有の慰謝料請求権も認められる.なお,死亡した被害者(夫)の生活費分が扶養利益の内容に含まれる場合,当然,その額は控除する.


■内縁夫婦が,内縁夫婦共同の共有名義で同居していたところ,内縁の夫Aが死亡した場合,建物にそのまま居住し続ける内縁の妻Bは,Aの相続人からの建物使用に係る不当利得返還請求を拒絶できない.

誤りである.最高裁判所第一小法廷平成10年2月26日判決によれば内縁夫婦の共同名義であることから,「特段の事情のない限り、両者の間において、その一方が死亡した後は他方が右不動産を単独で使用する旨の合意が成立していたものと推認」される.これは,居住のみならず,共同事業においても同様である.


■内縁夫婦の一方Bと日常の家事に関する取引をした第三者は,Bに,内縁夫婦のもう一方であるAの代理権があることを主張して,Aに債務の履行を請求できない.

誤りである.本問では,既に日常の家事にあたることは設問上確定している.そうすると「夫婦の一方が日常の家事に関して第三者と法律行為をしたときは、他の一方は、これによって生じた債務について、連帯してその責任を負う。ただし、第三者に対し責任を負わない旨を予告した場合は、この限りでない(民法761条)。」のであり,第三者に対し,責任を負わない旨の予告をした事実もない.したがって,ABは連帯して責任を負うべきである.


■内縁関係にあるABのうち,B女が,A男と別居している間に,B女が支出した医療費は,婚姻から生ずる費用に準じて,ABが分担する.

正しい.「夫婦は同居し、互いに協力し扶助しなければならない(民法752条)。」「夫婦は、その資産、収入その他一切の事情を考慮して、婚姻から生ずる費用を分担する(民法760条)」について,東京高等裁判所昭和58年12月16日決定は「民法760条、752条に照らせば、婚姻が事実上破綻して別居生活に入つたとしても、離婚しないかぎりは夫婦は互に婚姻費用分担の義務があるというべきであるが」「夫婦の一方が他方の意思に反して別居を強行し、同居の要請にも全く耳を貸さず、自ら同居生活回復のための真摯な努力を全く行わず、そのために別居生活が継続し、しかも右別居をやむを得ないとするような事情が認められない場合には、前記各法条の趣旨に照らしても、少なくとも自分自身の生活費にあたる分についての婚姻費用分担請求は権利の濫用として許されず」としている.

したがって,夫婦の一方が別居を強行する等,特段の事情が無い限り,別居中であるといえども,婚姻費用分担の義務がある.


■内縁成立の日から200日を経過した後または内縁解消の日から300日以内にB女が分娩した子の,A男に対する認知の訴えにおいて,子はA男の子と推定されない.

誤りである.「妻が婚姻中に懐胎した子は、夫の子と推定(民法772条1項)」し「婚姻の成立の日から二百日を経過した後又は婚姻の解消若しくは取消しの日から三百日以内に生まれた子は、婚姻中に懐胎したものと推定する(民法772条2項)。」

そして,最高裁判所第一小法廷昭和29年1月21日判決は「民法第772条の趣旨にしたがい内縁の夫の子と推定する」としている.なお,本問では問題となっていないが,認知の訴えについて,最高裁判所第二小法廷昭和57年3月19日判決は「父の死亡が客観的に明らかになつた時から起算する」としており,また,嫡出子と同様に非嫡出子も3年を除斥期間としていることに注意すべきである.

以上


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