2020年12月23日水曜日

全地球測位システム(GPS)を利用した債務者転居先の特定について

 全地球測位システム(GPS)は,スマートフォンの地図機能とともに,現代人の生活には必須のものとなっています. このシステムは, 人工衛星から発射(輻射)された電磁波をスマートフォンにて受信し,電磁波が発射されてからスマートフォンのGPSアンテナに受信されるまでの時間や,電磁波の発射方向,周波数などを測定し,地図と照合して地球上での位置を測定するシステムです.

さて,最近では(というよりかなり昔から),子供の行き先をGPSで常時確認できるような装置が上市されており,例えば,ドリームエリア株式会社の「みもりGPS」や,ソフトバンク株式会社の「どこかなGPS」のほか,株式会社NTTドコモなどは「イマドコサーチ」なるスマートフォンを利用して子供の位置情報を追跡するサービスを提供しています.

もっとも,子供を管理し,逐一居場所を特定するなどのサービスを提供する行為は,企業の倫理に疑念を差し挟まざるを得ず,仮に誘拐などが頻発している等の事情があるにせよ,薄気味悪いと言わざるを得ません.

さて,このようなサービスを,借金の取立てに使うのはどうでしょうか. 例えば,債務者が転居しているが,その転居先が不明な場合(もっとも,転居を届け出ない場合,住民基本台帳法52条2項は過料をもって罰すべきことを定めています)には,どうすればよいでしょうか?

これについて,多くの場合,借金取りは住んでいたところの近隣住民や建物の賃貸人(個人情報が洩れ出てくることは良くあります)に聞いたり,あるいは親族を探して聞いたりするわけですが,これが功を奏しない場合には,郵便局を使うという手があります。

郵便局は,転居先に郵便物を転送することがあり,その転送情報は,当然ながら郵便法8条2項による守秘義務の範疇に入るわけですが,いわゆる金融業者(街金)や探偵業者のような夜の業界(といってもこれらの業界は往々にして昼間が営業時間のようですが)の人々は,アルバイトを忍び込ませるなどして情報を得ることがあるようです.

そのようなリスクある行為に出なくとも,転送先の住所を特定し得る手法はあります. 郵便小包に位置情報を発信する装置を封入し,元の住所に向けて投函するという手法です. ですが,この手法は本当にリスクのない手法といえるのでしょうか?以下検討していきます.

1.まず,問題となるのは,債務者に対する書類等の送達のために取得される,「住所」それ自体が証拠といえるか,という点です. この点さえクリアすれば,それほどの問題が生ずるとはいえないでしょう.

2.この点,証拠とは,裁判において,判決の基礎となる事実を認定するための ①証拠方法 ②証拠資料 ③証拠原因 をいう. そうすると,既に裁判上確定した債権債務関係について,債務者の転居の事実,現在の居住地の類は,証拠とはいえないと解され,そもそも民事訴訟法上の問題となり得るかどうかすら疑問です.

3.次に,発信器を封入した郵便小包を送付する行為が,刑法上何らかの問題を孕むか検討します. まず,ストーカー行為等の規制等に関する法律の対象は,「つきまとい等(同法2条1項各号)」と「ストーカー行為(同法2条3項)」であり,前者は「特定の者に対する恋愛感情その他の好意の感情又はそれが満たされなかったことに対する怨恨の感情」,後者は「同一の者に対し, つきまとい等(中略)を反復してすることをいう。」であって,本法は全く問題にならないことがわかります.

4.この他,GPS発信器を送り付けられ,債務者が畏怖したなどの事情があったとしても,夜逃げ等の強く非難されるべき行為に対して,債権者がその居所を探知する目的で,GPS発信器を送付したことは,債務者の生命身体自由に対する侵害を言明したりしない限り,比較衡量して問題になるとはいえないように思われます.

まあ,これについては判例も見つからないためなんとも言えませんが,概ね上記のような判断になるのではないでしょうか?






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